東京オリンピックに向けてタバコの完全分煙と増税、つまり値上げの議論が沸き起こっています。
父は70才。喫煙者。要介護度3。
父は喫煙者の多い年代であり、デスクワーク中心の自営業者であったため、かなりのヘビースモーカーです。いわゆるベビーのその上、チェーンスモーカーと言うのでしょうか。
父はこの夏に脳梗塞で倒れ、軽く認知機能が低下しています。実際には高次脳機能障害と診断を受けました。
倒れて以来、経済的理由と健康をこれ以上急激に害さないためにタバコは一日一箱までと決めて吸ってもらいました。
もちろん吸わないほうが良いのはわかっています。ですがどうしても抑制がきかず、医者との話し合いの結果です。
タバコの禁断症状は凄まじく、安静にしておかなければならない父にはタバコを吸ってでも静かにしてもらう他ありませんでした。
でもそれが間違いでした。今では一日一箱では足りないのか、手元のタバコが無くなると一日中タバコの催促をするようになりました。
タバコ増税という言葉は恐怖だった
僕もタバコは嫌いです。臭いし、煙いし、同じ部屋で吸われると喉や肺が痛くなる。
それなのに毎月万単位のお金を燃やしているという事実が全く意味不明。
それでも喫煙者にとっては簡単に止められるものではないようです。でなければ禁煙外来なんてできないでしょうから。
自宅介護というのは働ける時間も限られるので、どうしてもお給料が減ってしまうのです。そのなかでやりくりをしていかねばなりません。
タバコ一日一箱は余裕がない生活のなかでの最大の無駄であるとともに、これがないと父が落ち着かないために必要不可欠なものでした。
そんな中、タバコの値上げのニュースを耳にしました。
背筋が凍りました。
これはとても個人的な話
ニュースを注視していると、屋内完全に非喫煙化が本筋の話であり、それに付随して増税もしたらどうかと言う話のようでした。
社会的にはとても良いことです。
今置かれている状況がこうでなければ、僕も両手をあげて賛成していたと思います。
ですが、現実として僕は理解力と認知機能が低下している父と暮らしています。
父はこうしたいああしたいという欲求を止めることが苦手になりました。
タバコもその一つです。
いや、実際にはこれでも相当我慢しているのかもしれません。元はチェーンスモーカーだった人が一日一箱なのですから。
自宅介護は消耗戦
自宅介護はいろんなものをすり減らしながら日々を過ごしていきます。経済的な蓄え、精神的な余裕、自分の時間など。
これは介護者も被介護者もどちらもそうなのかもしれません。
僕の母は糖尿病から腎不全、人工透析を経て、若年性認知症を発症し60代前半でなくなりました。
この時は父は介護者側の一人でした。
やはり疲れた顔をしながら、しかし愛する母のために懸命に付き添い、そして見送りました。
一箱1000円の地獄がすぐそこに
普通の人なら一箱が1000円にもなれば、自分で抑制して徐々に減らすか止めるかするのでしょう。
ですが、理解力や抑制が低下している人間にその説明が通用するのか。
今の自分について父は何も言いません
もしかしたら、急に何も出来なくなった自分とかつての母の姿を重ねているかもしれない。
不安でいっぱいかもしれない。それを紛らすためのタバコなのかもしれない。
タバコが一箱1000円になった時がとても怖い。
そのときにすり減らすのは父の心か、僕の心か、それとも生活か、その全てか。
同じような地獄を目前に控えている人はどれくらいいるのだろう。